雑記録

Twitterで書ききれない長文を投げるときにつかいます。

ものがたりのできるまで

 イラストのメイキングは世にたくさんありますが、小説やシナリオのメイキングはほとんど見たことが無いので、のぞいてみたら面白いかな?と思ってやってみます。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12761593

 こちらの小説がどのようにして形になったのか、という記事になります。

 今回は短めで説明がしやすいのと、最初の予定から紆余曲折あってかなり違うものになったプロセスが面白いと思うので、ざっくりと流れを追ってみることにします。

 

 

工程その1・着想

 ふだんはCPなしの作品を作っているのですが、CPなしのつもりで書いたものが主ベロ(ご存じない方は読まれないと思いますが、いちおう説明しておくと、プレイヤーの分身たる無口な主人公と、とっても強気なヒロインです)がお好きな方にとても気に入っていただけまして。
 その方に「自分にとって最強のツボはこういうのです!」と紹介していただいた、他の方の書かれた作品が「おお、この設定おもしろいね…なるほど、こういうのが」と思わされるものでして、感想をいただいたお礼も兼ねて、ちょっと自分なりにやってみようかと思い立ったのがきっかけです。

 亡国の王たるブンくん(主人公)がベロニカさん(ヒロイン)といっしょに、原作本編が終わったあとの世界で王様お姫様としてイチャつきながら国を復興するお話だったのですが、ちょうどバレンタイン用に女性陣がキャッキャしながらチョコレートを作るお話を書いていたので、その後編として取り入れてみようとまずは思い立ちました。 CP(付き合いだしてから)は書けないので、そこに至るまでの序章にしようと考えて


・ブンくんは勇者兼国王というプロフィールだけど、旅に出るまではただの素朴な村人だったので、そこを活かした牧歌的なお話にしよう、前編もちょうど村のお話なので

 ・一国のお姫様になるにはどうしたら?ある日突然?なにかの儀式や手続きが必要?そうだ、王様お姫様といえば冠、村の子たちがおままごとで作るような花冠で、本気なのか冗談なのかわからないニュアンスで「君は今からお姫様だ」なんて言われて、とまどったりしたら面白いかもね


 こんなアイデアがまず生まれました。
 このいわば「お話のタネ」の出どころは人によって大きく違うそうなのですが、私は完全に雨待ち、いわゆる「降ってくる」タイプです。
 いままでに触れてきた作品のワンシーンのパク…アレンジやオマージュだったり、知識や雑学的な小ネタから生まれることが多いですが、今回のアイデアはおそらく西洋の風習に「新婚さんたちは、納屋や馬小屋の干し草の中で初夜を迎えるお約束がある」というところから派生したものだと思います。
 現代の華やかな結婚式と違って、素朴というかつつましいというか…それでいてあからさまなので、面白いなと思って記憶していた雑学です。
 戴冠を結婚式にみたてた上で、冠が納屋の干し草だったら面白いな…と

 そこから話の山場にしたいシーンを考えました。具体的には以下のシーンが浮かびました。

 

・ブンくんがベロニカさんに花冠をかぶせて、なにか含みのあるようなことを言って呆れられる
「これで、キミは今からお姫様だ」
「アンタってほんとお子様ね…」

 

・就寝前の寝室、セーニャさん(ヒロインの双子の妹)に冠のエピソードを冗談のように話すものの、実は心を動かされるところがあったので触らせない
「お姉さま、私もお姫様になっても?」
「バカ。アンタまでおままごとを始めるんじゃないわよ」

 

・夜中にこっそり起きだして、花冠をストーブで焼く 友人のつもりでいたが、案外…と思って意識してしまい、そんな自分を笑い飛ばそうとする
「バカみたい」

 

 コンセプトを「ここから始まる主ベロ」ということに決めて、そこに繋がるエピソードを作りはじめることにしました。

 


工程その2・主題の決定とプロットの制作

 今回は浮かんだシーンが山場と結末だったので、そこだけ書いてもお話として成立しますが、いつものようにそこに至るまでの引き、いわば助走のようなパートを肉付けすることにしました。
 まずはお話の主題(テーマ)を探すため、先に思いついたシーンは自分にとってどこがグっと来たのかを煮詰めてみます。

 

・ブンくんはどうしてストレートに気持ちを伝えないのか?
→ベロニカさんを蘇生するために、色々なものを犠牲にしてきたので、少なくとも「ただの友達」ではなさそう
→だけど、恋人として結ばれるために、他人を蹴落とすような人間を自分は好きになれない
→それでも色んなものを天秤にかけてきたので、蘇生できたという事実に満足して、後悔はしていないものの、基本的には罪の意識として抱えていることにしよう
→なので気持ちを伝えることはない。片思いを墓まで持っていく…けど、やっぱり突き離して距離を取るようなこともできないので、ちょっとだけ内心をにおわせる

 

・ベロニカさんのほうは?
→前編で色恋にまったく無頓着なキャラクターとして描いた。他人に好意を寄せることもなければ、他人に好意を寄せられるとも思っていない
→そんなベロニカさんが、自分と他人の中にある好意にかすかに気がつく、たぶん思いついたシーンに自分が惹かれたのはそういうところだったのだろう。ブンくんの気持ちがかすかに伝わる、切ない感じが好き

 

・とすると、今回抱えた問題や悩みが深いのはブンくんのほう。彼を主役にしよう
→彼にとっての障害とは?たくさんのものを切り捨て、心を傷つけて来たのに、そんな自分が幸せになって良いのかという罪の意識
→前編が「誰も蹴落とさずに幸せになるのって、難しいよね」というお話だった。後編も同じテーマを引き継いだうえで明確な好意を描いて、結ばれるのは難しいと思うけど、その後上手く行ったかもしれないね、と想像に任せる感じにしよう
→ブンくんが自分が幸せになることでもっとも傷付けると思っているのは誰?時を渡って置き去りにしたカミュ(ブンくんの相棒)とセーニャ(ベロニカさんの双子の妹)。じゃあ、そのあたりを彼らと話すシーンを入れよう

 


 これで主題が決まったので、次はプロット(おおまかなお話の流れ)を組みます。
 思いついたシーンのうち、ふたつは結末になることが決まっているので、冠をかぶせる前後にどんなシーンを入れるか考えます。

 


・冒頭、ブンくんとそろそろラムダに帰るわとお話するベロニカさん

 ↓バレンタイン(前編)に関する雑談

 ↓おしゃべりしながらブンくんが手遊びで作っていた冠が完成「アンタ器用ね」

 ↓おままごとのように冠をかぶせられ、呆れるベロニカさん

 ↓お散歩中のカミュセニャに見つかり、あわてて退散

 ↓ブンくん「君らってどうなの?」 適当にごまかすふたり

 ↓ブンくん「じつは…」 時渡りの心残りについて、核心をボカして話す
 「君たちは、ぼくがいなくても幸せになれる?」
 「うぬぼれんな」
 「ごめんね。でもセーニャは、もしベロニカがいなくても、幸せになれる?」

 ↓場面転換、寝室でベロニカにイレブンがしていた話を伝えるセーニャ
 「ふーん、そんなこと言ってたんだ(アイツ、案外本気ってこと?)」

 ↓なんだかんだで持っていた冠をセーニャに見つかるが、触らせない

 ・冠をストーブに放り込み、物思いにふけるベロニカさん

  

 この時点では上のような流れになる予定でした。
 ちょっと尺が物足りない(たぶん1万文字に届かないくらい)ので、冒頭部分に別のシーンを付け足したいな…エマちゃん(主人公の幼なじみ。公式で片思い)とマヤちゃん(カミュくんの妹。筆者のお気に入り。めっちゃいい子)でも出そうか。
 だけど、主ベロのお話にするからには、エマちゃんを出すと話がややこしくなりすぎるよね…と、そんなことを考えながらも良いアイデアが出てこないので、このお話はしばらく塩漬けになっていました。


工程その2’ 方針を変えて作りなおし

 ちょっと私事というか、作品とは直接関係のない出来事ではありますが、それもメイキングの一部ということで。
 アイデアが出なくて煮詰まっていたことに加えて、前編のウケがとても悪かった(面白く書けた自信はありましたが、さすがにテーマが誰得すぎました)ので、まあ前編だけでもちゃんと完結しているし、このお話はお蔵入りで良いかな…と、そんな気持ちになり、当時別の作品に取り掛かっていました。
 そちらは順調に進んではいたのですが、自分としてはちょっと珍しい、テーマではなく雰囲気が重苦しい作品だったので、世の中がアレの影響で暗い今、これを世に出すのはな…と、そんな事情でそちらもいったん塩漬けにすることになってしまいました。
 それでも何か書きたいな…こっちを再開する?だけどこっちもテーマが誰得なんだよね…まあこんな世の中だし、たまには誰かが喜んでくれるものを、素直に書くのもいいか、と、そんな事情で素直にCPをやる明るいお話として改めて仕上げることにしました。

 

 誰かが喜んでくれるお話ということで、着想の段階で主ベロ作品が紹介してくださった方が「王様お姫様になったあと、お城でイチャつくふたり」というシチュエーションのお話を書かれていたので、きっとみんなが見たいものはこれだろうと思い、まずはお城のシーンを入れることを決めました。
 はじめに思いついた冠の出てくるシーンはそのまま使いたかったので、お城のシーンはおまけとして分離させることにして、そこに繋がるようにプロットに調整を加えました。

 

・お城ということは、ふたりが親密になっていなければならない
→じゃあ、ブンくんが明確に気持ちを伝えることにしよう
→ただし、恋愛は書けないので別の形で…前編でお姉さまがそう言ったものに興味がないキャラクターとして描いたので、そもそも不自然
→ベロニカさんは、なんとなく平和な村の暮らしには退屈しそうな気がする。もしもそれより面白そうな未来があれば、きっと興味を示すはず
→では、ブンくんが共に仕事をする「パートナー」としてお姫様にならないか?と、そう持ち掛けることにしよう

 

・とすると、変更が必要な部分は?
→ブンくんが気持ちを伝えるので、罪の意識を描くとお話がブレる。カミュセニャのふたりはカット
→では代わりにどんなシーンを……そうだ、冒頭部分でマヤちゃんとおしゃべりしながら冠を作ることにしよう。子供の遊び、花冠の作り方を教えていることにすれば、その後に繋がる良い流れになるはず
→ふたりはどんなお話を?ブンくんがベロニカさんに未来を提示することになるので、マヤちゃんにも将来の話をしてもらおう
→ふたりの共通項は?そうだ、マヤちゃんは未来の決断に迷っているから、ブンくんは未来を決断した、という対比として主題として取り入れることにしよう

 

カミュセニャをカットしちゃうと、寝室のくだりが入れられない
→ふたりを出したうえで、すこしニュアンスの違う話をさせようか?
→そうだ、ブンくんに「ベロニカがいなくても」の話をさせると、ベロニカさんが大樹のキャンプでした「アタシがいなくても」と上手くリンクする
→こっちでもベロニカさんがブンくんの本気度を計りかねるニュアンスは出せる。そうしよう
→冠を焼くシーンはそのまま。その後におまけがあるので、含みも増したと思う

 

・お城のシーンは?
→今回は誰かが喜んでくれるお話がテーマのひとつなので、ちゅーさせたい。させよう
→明確な主ベロのお話にするので、カミュセニャも明確にして、それぞれの道を歩む双子がひさしぶりに再会することにしよう
→これだとカミュセニャといっしょに旅するマヤちゃんが描けて最高だね…あと趣味でモブも出そう(ニヤニヤ)


 ここからどんなプロットが出来上がったのかは、本編を読んでの通りです。
 マヤちゃんを出すことにして、主題を決めてからは特に悩むことなくすんなり決まっていきました。普段やらないお話を考えるのは楽しかったです。

 

工程その3・小説の形にする

 設計図は出来たのであとは書くだけです。
 本文を書いているあいだに出てくるアイデアもかなり多く、私の場合はプロットと執筆中に思いつくものがいつも半々くらいです。ここも人によって大きく違うところだと思います。

 小説のお作法については、他人に語れるほどのノウハウもこだわりも持っていないのですが、形にするにあたっていつも気をつけていることがありまして…

「小説にルールも正解もない。これで良いのか?と悩んだときは、良いということにする」
「他人の文章と比べない。人には得手不得手があり、自分にも得意なところはある」
 筆が止まった時は、こんなことを自分に言い聞かせることにしています。
 自覚している自分の長所と短所(うぬぼれ含む)は…


長所
・セリフを書くのが好き。得意。自然な会話を作るのは上手いと思う。
・あまり細部にこだわらない。主題が伝わればいいと割り切れる。
・そのぶん、繊細な文章を書かれる方より筆が早い。他人よりかけている時間が短いので、と自分に言い訳ができる。
・ほわっとした素朴な空気感を出すのが好き。たぶん得意だし、上手くできていると思う。


短所
・地の文を書くのが苦手。楽しくないので苦しむことが多いし、がんばっても人並みに届かない。割り切って会話劇にする。
・詩的で繊細な表現が苦手。ほわっとしたものは得意なので、手を出さない。
・ジェットコースターのように二転三転するお話は作れない。好きでもないのでそれでいい。面白かったと言われる話ではなく、好きですと言ってもらえる話を書く。


 だいたいこんな感じです。
 「これで良いんだ。上手くはないけど、そこが味なはず。面白い話じゃない、伝えたいことを伝える話を書くんだ」
 と自己暗示をかけながら、ひたすら本文を書いていきます。
 良いとか悪いとか無いんです。自分が形にしたものはすべて正解です。そういうことにする強い意志が大切です。本人が小説だと言ったなら、その文章は小説です。そうでしょう?

 

 シーンを削って楽をしたい気持ち、はやく世に出して人目に触れさせたい気持ち、書いたものを誰も読んでくれないんじゃないかという不安などなどと戦いつつ、なんとか結びをつけたら完成となります。おつかれさまでした。